アニメ鑑賞委員会×ANOHANA PROJECT イベントレポート ~「あの花」はリアルにこだわった作品~

写真:イベント模様

(右から長井監督、田中キャラクターデザイン・総作画監督、
那須撮影・CG監督)

長井監督:

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」)では、主人公が幽霊という大きな嘘をついています。嘘が多いと本来伝えたい若者たちの心の動き・変化が伝わらなくなるので、それ以外はリアルであることにこだわって作りました

だから、食べ物も本当に存在する商品を出して、そのあたりで引っかかりがないようにしています。また、舞台に関しても、特別な場所にしてそこを意識してもらうのではなく、登場人物に目を向けてもらうためにリアルな場所、皆さんの目に馴染んだ場所を選びました

あのはなスクリーンショット あのはなスクリーンショット

(登場人物たちの感情の変化を伝えるために拘りぬいたリアルな舞台)

田中将賀キャラクターデザイン・総作画監督:

本作は背景がとてもリアルです。キャラクターの造形も、アニメアニメした外したものにするのではなく、その背景に馴染むようにしました。その結果、「あの花」だけの特別なことをしたわけではありませんが、芝居にしても丁寧になっていきました。

「あの花」では泣くシーンと走るシーンが多いのですが、泣くシーンでは作為的に見せないように注意しました。「はい、ここから泣きますよ」というに見せないように常に感情を先行させるようにしていました。そのため、見ている方もすんなり入っていかれたのかなと思っています。

あのはなスクリーンショット
(自然に感情移入してしまう涙のシーン)

那須信司撮影・CG監督:

アニメにおける撮影は、上がってきた素材を背景とセルを合成して、そのシーンに相応しい空気感になるように調整する仕事です。

本作品は、自分が今までやってきた作品の中で一番撮影と監督が密接にかかわって作り上げました。TVアニメと言う時間の制約が厳しい環境下でありながら、 リアルな画を作り上げるために、太陽光の微妙な調整や、秘密基地等が話数毎にばらつかない様に細かい調節を監督と一緒に行わせて頂きました

あのはなスクリーンショット
(細かく調整された撮影が実現した世界観)

カタカタする画はアニメの宿命

長井監督:

アニメは不確定要素で入ってくるものが基本ない世界です。小物の配置、生えている植物までコントロールできてしまいます。だからこそ、意図しない意味が発生しないようにしなければならないと思いながら作っています

今回の「あの花」では、最初に登場する6本の花、マグカップ、パッチン(髪留め)などを上手く意図したとおりにコントロールできたと思っています。

しかし、アニメではパン(カメラを上下左右に移動させる)する時に何か画が戻るように見える「フリッカー現象(カタカタ)」が起きます。
(委員会注記:スポーツ中継やニュース、ドラマなど通常のテレビカメラで撮影された映像は60コマ/秒の静止画でできているのに対し、そもそもアニメは24コマで作られるため、普段見慣れた映像よりも物理的にカタカタするのが実情です)

あのはなスクリーンショット
(左側の液晶テレビはスムーズだが、右側の液晶テレビは「カタカタ」しているため、
キャラクターを描いた線が2重になって見える)

こうした「カタカタ」しているのが味になっている昔のセルの作品などもあるかもしれないですが、味はお客さんが判断するものです。作っている側としては、作ろうとしているイメージがスムーズな画なのですから「カタカタ」は無ければ一番良い物なのですが、技術的に直す事はできないと思って諦めていました。

田中将賀キャラクターデザイン・総作画監督:

静かなシーンでなるべく普通に見てキャラクターの演技に集中していただきたいので、「カタカタ」は困ります。

アニメは24コマ/秒の静止画で作られているのですが、実際の動画では3コマ打ちといって8コマ/秒と少ない枚数で動かしています。そうした中で、大切なシーンでは「カタカタ」しては困るので、画の枚数を12コマ/秒に増やしたりして、出来るだけ画がスムーズに動くように作画でも努力しています。

あのはなスクリーンショット
(感動のシーンはスムーズに見たい)

また、この「カタカタ」するというのは、アニメ業界全体でも認識されている課題です。アニメがデジタル化される際に、アニメのコマ数を24コマ/秒から30コマ/秒に増やそうという話もありましたが、アニメーターの慣れやコストの問題があって立ち消えになっています。

写真:イベント模様

那須信司撮影・CG監督:

「カタカタ」については、撮影段階でも解消すべく色々と工夫をしています。放送前には家庭の環境でどう見えるかを家庭用テレビで確認をしていますし、撮影段階ではパンするスピードを遅くしたり、画角を変えたり、背景をぼかしたりして目立たないように工夫をしています。

しかし、ある程度まで直したら、後はもうこれは仕方ないねと大抵の現場で思っています。どこも「カタカタ」には苦労しているのですが、直らない技術的制限と捉えています。

4倍速がアニメの課題を解決

長井監督:

アニメがシーンによってはカタカタしてしまうのはコマ数が少ないという仕様上の宿命だと思っていましたが、最近の液晶テレビでは「倍速技術」によりコマ数をテレビが補完してカタカタを減らしてくれるようです。

今回のイベントでソニーの〈ブラビア〉に搭載されている「4倍速」を初めて試させてもらったのですが、4倍速の効果は本当に凄いですね。私が頭の中でイメージした通りの物が出ていて、正直別物に見える位です。頭の中で動かしている時は4倍速のイメージで作っているのですが、どうしても技術的なものがあってカタカタした画になるのは止むを得ないと思っていました。それなのに4倍速の〈ブラビア〉では、私が頭の中でイメージしていた画が再現されています

機会があれば実物で見て欲しいのですが、最終回に「じんたん」が「めんま」を背負って橋の上を走るシーン。こうした夜のシーンでのパンは「カタカタ」しやすい上に誤魔化しが効きません。それなのに、そこが4倍速の〈ブラビア〉では「ぬるぬる」動いています。橋の欄干の間の画が見えるんですよ!

あのはなスクリーンショット
(4倍速なら橋の欄干の間が動画でも確認できる)

これはもう一度4倍速のテレビでアニメを見ると通常のテレビには戻れないと思います。

写真:イベント模様

田中将賀キャラクターデザイン・総作画監督:

4倍速の〈ブラビア〉で「あの花」を実際に見て驚きました。今でも現場では秒30コマにしようか?という話が出たりしています。しかし、色々な事情で結局まぁ立ち消えになったりしているのですが、「正直ここまでテレビ側で修正できるのであれば30コマいらないな」とすら思ってしまいます。

一方で、作画監督としては逆に辛いなぁと感じます(苦笑)。ここまで見えてしまうのかというところがあるのです。長井監督も言われていますが、これを一度見せられてしまうと戻れません。それこそ、DVDを見慣れていた時にBDを見た感じに近いと思いました。DVDからBDに変わった時も凄いインパクトがありましたが、それに匹敵する驚き。テレビが放送された映像を単に出力するものから、ここまで映像を本来あるべきものにする力を持つレベルにまで進化したことに驚きました

那須信司撮影・CG監督:

4倍速の効果には参りました。何度もパンの速度や画角を変えたりしてリテイク(修正)したのに、完全には監督のイメージ通りにはならなかったシーンも見事にスムーズになっています

ここまでしっかりと見えるようになるのであれば、ちょっとしたミスも直ぐ見つけられてしまいます。これで見られるという事を前提でこれから我々はアニメを作らないといけません。撮影監督としては今まで以上に手が抜けなくなりますから腕がなります

こぼれ話

長井監督:

最終回で「つるこ」が付けているパッチンは「ゆきあつ」がプレゼントしたものです。また、タイトル等に入っている五枚の花弁の花は「忘れな草」を意識したものではなく実はタイトルデザイナーさんが別に作ったものです。でも、今は「忘れな草」ということにしてください(笑)

あのはなスクリーンショット
(このパッチンは「ゆきあつ」からのプレゼント)

田中将賀キャラクターデザイン・総作画監督:

あの花の正式な略称は「あの花」ではなく「あのはな」です。タイトルを斜め読みすると「あのはな」になるように「知らない」を一段下げてあります。また、タイトル文字をうっすらとまるで囲って「あのはな」と読めるようにしてあるのです。

あのはなスクリーンショット
(正式な略称は「あのはな」)

那須信司撮影・CG監督:

この作品は室内だったり、外だったり、河原だったり、森だったりと、暗いところが多いです。夜ということで暗くするとキャラクターの表情が見えません。一方で暗い中でキャラクターが光って見えては駄目なので、撮影だけでなく色を決める人たちも一緒に工夫しました。

あのはなスクリーンショット
(暗いシーンもリアルに)
©ANOHANA PROJECT

「あのはな」スタッフプロフィール

長井龍雪 ―Tatsuyuki Nagai―

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」監督

プロフィール画像:長井龍雪

1976年生まれ。新潟県出身。アニメーション監督、演出家。
制作進行、演出助手経て2006年に「ハチミツとクローバーⅡ」で初監督を務める。
「とらドラ!」(2008年)、「とある科学の超電磁砲」(2009年)で一躍脚光を浴び、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011年)では監督・演出家としてファンの絶大なる支持を受けた。

田中将賀 ―Masayoshi Tanaka―

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」キャラクターデザイン・総作画監督

プロフィール画像:田中将賀

1976年生まれ。長井龍雪監督作品「とらドラ!」や、「家庭教師ヒットマンREBORN!」「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」でキャラクターデザイン・総作画監督を務めた。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011年)では言葉を必要としないほどの表情芝居でファンを感涙に導いた。

那須信司 ―Shinji Nasu―

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」撮影・CG監督

プロフィール画像:那須信司

長野県出身。「トップをねらえ2!」の3D監督や「閃光のナイトレイド」、「THE IDOLM@STER アイドルマスター」で撮影監督を務めた。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011年)ではリアル以上にリアルに見せる撮影技術で本作の空気感を作り上げた。

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